色覚アクセシビリティQA 2025 — シミュレーションとCIでインシデントを未然に防ぐ
公開: 2025年10月5日 · 読了目安: 6 分 · 著者: Unified Image Tools 編集部
Display-P3やHDRを扱うプロダクトでは、色覚多様性を考慮したQA体制が不可欠です。とはいえ、デザイン側がFigmaで色を更新するたびに手動でシミュレーションを回すのは現実的ではありません。本稿では、色覚シミュレーター、CI/CD、インシデント対応を統合し、安定してアクセシビリティを担保する方法をまとめます。
TL;DR
color-diff
とPalette Balancer
を組み合わせてΔE閾値を設け、ライト/ダーク/ハイコントラストのトーンを定量監視する。- Color Pipeline Guardian のシミュレーションセットをCIに組み込み、P型(1型2色覚)、D型(2型2色覚)、T型(3型2色覚)の疑似視覚でレポートを出力する。
- QAチェックリストは AIレタッチSLO 2025 のSLOアプローチを参考に、インシデント閾値とエスカレーション手順を明文化する。
- インシデントログは Audit Inspector でtemporalなタグ付けを行い、改善タスクと再発防止策を紐付ける。
- 成果指標として、ΔE逸脱率、WCAG合格率、色覚シミュレーションのNG件数、修正リードタイムをダッシュボードで追跡する。
1. テスト設計
1.1 カバレッジの整理
色覚QAの対象を整理するには、UIの種類とユーザーアクションを軸にマトリクス化するのが有効です。
UIカテゴリ | 主なコンポーネント | 優先視覚タイプ | 測定値 |
---|---|---|---|
フォーム | ボタン、入力欄、ラベル | 2型2色覚 / ハイコントラストモード | コントラスト、フォーカスリング視認性 |
データ可視化 | チャート、ヒートマップ | 1型2色覚 / 3型2色覚 | 色の区別度、テキスト代替 |
通知・アラート | トースト、バナー、バッジ | ライト/ダークテーマ | ΔE差、視線誘導 |
マーケティング | OGP、キャンペーンページ | 全タイプ | P3→sRGB変換、レギュレーション遵守 |
1.2 テストシナリオ
Scenario A
: フォームのエラー表示が色だけでなくアイコンや本文でも伝わるか。Scenario B
: チャートの凡例とデータ線が1型/2型/3型の各疑似視覚で識別できるか。Scenario C
: ダークテーマ切り替え時に背景色とアクセント色がΔE 1.0以内で保たれるか。Scenario D
: HDR画像をsRGBフォールバックに変換した際、主要CTAの色がWCAG AAを維持できるか(参考: HDR / Display-P3 画像の配信設計 2025 — 色忠実度とパフォーマンスの両立)。
2. CIパイプラインへの組み込み
2.1 シミュレーターの自動化
Color Pipeline Guardian では、疑似視覚ごとのPNG差分とJSONレポートを出力できます。GitHub Actionsでの例を示します。
- name: Install CLI
run: npm install -g @uit/color-pipeline-guardian
- name: Run simulations
run: |
color-pipeline-guardian run \
--input .next/screenshots \
--modes protanopia deuteranopia tritanopia achromatopsia \
--output reports/color-sim
- name: Upload artifact
uses: actions/upload-artifact@v4
with:
name: color-sim-reports
path: reports/color-sim
- レポートは
reports/color-sim/summary.json
にまとまり、ΔEの最大値やWCAG判定が格納されます。 - ΔEが閾値(例: 1.2)を超えた場合はCIを失敗させ、
Audit Inspector
にIssueを自動登録します。
2.2 Palette Balancer との連携
Palette BalancerのAPIを validate-contrast.mjs
から呼び出し、疑似視覚レポートと合わせてダッシュボードへ送ります。
const { score } = await paletteBalancer.validate({
foreground: token.color.primary,
background: token.color.background,
mode: 'AA',
});
if (score < 1) {
await auditInspector.createFinding({
category: 'contrast',
tokenId: token.id,
context: 'protanopia',
});
}
3. ガバナンスと運用体制
3.1 QAチェックリスト
項目 | 測定方法 | 合格基準 | エスカレーション |
---|---|---|---|
色差(ΔE) | Color Pipeline Guardian / Palette Balancer | 1.2以下 | SREへ通知 → 24時間以内に再測定 |
WCAG比率 | Palette Balancer | AA準拠(3:1 / 4.5:1) | Design Opsが代替案を提案 |
シミュレーション差分 | 疑似視覚PNG差分 | 主要コンポーネントで差分面積5%未満 | UXリサーチとレビュー会議 |
再現手順 | Runbook整備状況 | 最新化から30日以内 | Runbook更新タスクをneeds-review へ |
3.2 インシデントレスポンス
- 重大度は
S1
(重要CTA不可視)〜S4
(軽微)で分類し、AIレタッチSLO 2025 のエラーバジェット概念を転用します。 Audit Inspector
にインシデントを登録すると、タイムライン・スクリーンショット・シミュレーション結果が自動紐付けされます。- 週次の「Accessibility Ops Sync」でインシデントサマリと改善ステータスを確認し、S1/S2が3件連続した場合はデザインシステムのガードレールを見直します。
4. ダッシュボードと指標管理
4.1 指標例
- ΔE逸脱率: ブランド/テーマごとの割合。月間5%未満を目標。
- WCAG合格率: UIコンポーネント単位でのパス率。95%以上を維持。
- Simulation NG件数: 疑似視覚で差分面積5%以上となったスクリーン数。
- 修正リードタイム: インシデント発生からデプロイまでの平均時間。
4.2 データ連携
- シミュレーション結果は
BigQuery
に蓄積し、Looker Studioで可視化します。 - Grafanaでは
color.qa.incidents
のメトリクスをトレースし、SLO違反時にPagerDutyへアラート送信します。
5. ケーススタディ
グローバルSaaS製品で色覚QAを導入した際の成果です。
- 色覚関連のサポート問い合わせが月12件 → 2件に減少。
- ΔE逸脱率が9.8% → 1.4%へ改善。
- 修正リードタイムが平均42時間 → 9時間に短縮。
指標 | 導入前 | 導入後 | 改善率 |
---|---|---|---|
ΔE逸脱率 | 9.8% | 1.4% | -85% |
WCAG違反件数 | 23件/月 | 3件/月 | -87% |
修正リードタイム | 42時間 | 9時間 | -79% |
まとめ
色覚アクセシビリティQAは、シミュレーション・定量指標・運用フローの三位一体で初めて継続的に回せます。Color Pipeline Guardian や Palette Balancer をCIへ組み込むことで、デザイン更新のたびに品質が保証される状態を作れます。まずは対象UIのマトリクス化から始め、疑似視覚レポートを定例会議に取り込んでいきましょう。
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