AI画像インシデントポストモーテム 2025 — 品質とガバナンスを底上げする再発防止術

公開: 2025年9月27日 · 読了目安: 5 · 著者: Unified Image Tools 編集部

AI 生成や自動オプティマイザを活用する画像パイプラインでは、わずかなパラメータ変更でもブランド毀損や法規制違反につながる欠陥が発生することがあります。障害が発覚した際に「誰が・いつ・どう対応したか」を記録し、類似障害を未然に防ぐための学びにつなげるには、体系化されたポストモーテム手法が不可欠です。本稿では、画像配信インシデント対応プロトコル 2025 — キャッシュ無効化とフェイルセーフ設計UGC画像ゼロトラスト審査パイプライン 2025 — リスクスコアリングと人手レビューフロー画像品質バジェットとCIゲート 2025 — 破綻を未然に防ぐ運用 と連携した AI 画像向けポストモーテムの実践を解説します。

TL;DR

  • ポストモーテムは 48 時間以内に発行: 事象の背景・影響範囲・再発防止策をテンプレート化し、公開までライブトラッキング。
  • 多層の監視とトリアージ: 画質指標、メタデータ検査、ユーザー報告を統合し、重大度ベースでオンコールを起動。
  • 根本原因分析 (RCA): 因果マップと 5 Whys を組み合わせ、モデル / データ / オペレーションの観点で再発防止策を定義。
  • 再発防止は CI/CD に組み込む: テストケース、ルール、メトリクスを自動化し、改善状況を KPI で追跡。
  • 知見の共有と文化形成: 非難なき振り返りを徹底し、ガバナンス文書にフィードバックを反映。

インシデント検知からクローズまでのライフサイクル

sequenceDiagram
  participant W as Watchers (監視)
  participant O as On-call
  participant P as Postmortem Lead
  participant C as Control Board
  participant R as Repository

  W->>O: アラート (Severity S1)
  O->>P: エスカレーション
  P->>C: 状況報告 + 暫定対策
  O->>R: 影響範囲レポート
  P->>R: ポストモーテムドラフト
  C->>R: 承認 & 共有
  • Severity S0–S3: S0 は緊急(リーク・規制違反)、S1 は重大(ブランド毀損)、S2 は限定的、S3 は軽微。
  • 暫定対策 (Mitigation): ゾーン隔離・ロールバック・ CDN 無効化等を 30 分以内に実施。
  • 恒久対策 (Remediation): 再発防止策を Backlog に登録し、期限と責任者を設定。

ポストモーテムテンプレート

# Incident PM-2025-09-27-01

## Context
- Discovered: 2025-09-27 04:12 UTC
- Severity: S1
- Impact: 画像 4,200 件がブランドカラー逸脱
- Stakeholders: Marketing, Legal, SRE

## Timeline
| 時刻 | イベント | 担当 |
| --- | --- | --- |
| 04:12 | L*a*b* モニタリングで閾値超過検知 | MonitorBot |
| 04:17 | オンコールが CDN ルールで配信停止 | On-call |
| 04:31 | 影響パス調査完了 | Analyst |

## Root Cause Analysis
- Direct cause: LUT 更新の Git フックが失敗
- Contributing factors: CI テスト不備、レビュー並列化

## Corrective Actions
- [ ] `scripts/validate-lut.mjs` に ΔE チェック追加 — 2025-10-01
- [ ] Codeowners を拡張しブランド担当を必須化 — 2025-10-03

## Lessons Learned
- レビュー手順のドキュメント化
- オンコールハンドブックの更新

このテンプレートは /run/_/postmortems/ で管理し、Markdown と JSON で両方保存することで分析に活用できます。

監視とトリアージ

レイヤー指標ツールアクション
画質ΔE2000, SSIM, LPIPSimage-quality-budgets-ci-gates閾値超過で Slack 通知
メタデータIPTC/XMP キーの逸脱audit-logger + 同意管理ツール個人情報検出で自動隔離
ユーザーCS 問い合わせ、SNS 監視Sentiment API負のトレンドで手動検証

監視結果は OpenTelemetry で収集し、以下のようなアラートルールを設定します。

alertRules:
  - name: deltaE-spike
    expr: sum(rate(image_delta_e_over_threshold_total[5m])) by (pipeline) > 0
    for: 10m
    labels:
      severity: S1
    annotations:
      summary: "ブランドカラー逸脱 ({{ $labels.pipeline }})"
      runbook: "https://runbooks/ui/color-drift"

RCA (Root Cause Analysis) の実践

  1. データ収集: CI ログ、 Git diff、生成プロンプト、モデルバージョンを evidence/pm-<id>/ に集約。
  2. 因果マップ: Miro や Excalidraw で因果関係を書き出し、直接原因と間接要因を分類。
  3. 5 Whys: 「なぜ」を 5 回繰り返し、プロセスや文化面まで掘り下げる。
  4. 反証実験: 再現テストを構築し、仮説が正しいか検証。再現できない場合はデータ不足として補強。
  5. アクション定義: S/M/L で実装コストと効果を評価し、ロードマップに組み込む。

改善策を CI/CD に落とし込む

  • テストケース追加: 再現プロンプトを e2e テストに追加し、npm run -s test -- --filter=incident で回す。
  • ガードレール: scripts/pre-merge-checks.mjs にチェックを追加。
if (metrics.deltaE00 > thresholds.deltaE00) {
  throw new Error(`DeltaE00 ${metrics.deltaE00} exceeds ${thresholds.deltaE00}`)
}
  • 可視化: KPI として「未完了の恒久対策数」「解決までの時間」を追跡。
  • ナレッジ: ポストモーテム結果を /run/_/postmortems/reports.csv に集約し、四半期ごとにレビュー。

チェックリスト

  • [ ] インシデント検知から 30 分以内に暫定対策が実施された
  • [ ] ポストモーテムが 48 時間以内に公開された
  • [ ] RCA で直接原因・間接要因・システム的要因が識別された
  • [ ] 恒久対策がチケット化され進捗が可視化されている
  • [ ] ナレッジがトレーニングやガバナンス文書に反映された

まとめ

AI 画像パイプラインにおけるポストモーテムは、単なる反省会ではなく、品質と信頼を継続的に高めるための基盤です。迅速な検知、透明性のある振り返り、定量的な改善サイクルを確立することで、モデル更新や素材追加といった変化にも安定して対応できます。非難なき文化とデータドリブンな振り返りを組み合わせ、チーム全体の学習速度を加速させましょう。

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