多拠点ローカライズ画像オペレーション 2025 — Web制作会社のPMOが押さえるべき設計図
公開: 2025年9月28日 · 読了目安: 7 分 · 著者: Unified Image Tools 編集部
生成拠点が複数ある Web 制作会社では、「日本で作ったビジュアルを48時間以内に北米・欧州・APACそれぞれのローカル要件に合わせて差し替える」ような案件が当たり前になりました。この記事では、ローカライズ画像ワークフローを PMO 目線で再設計するためのステップを整理し、CI による自動監視、権利情報の統制、ローカルチームとの SLA 管理まで含めた実践的なガイドを提供します。
複数言語サイトの画像品質監査 2025 — 翻訳差分と配信検知の自動化 を補完する形で、制作会社のオペレーション主管が現場に落とし込めるコントロールタワーの設計図としてご活用ください。
TL;DR
- 翻訳前提の DAM 設計が最優先: 原稿・マスター画像・ローカル差分を同一 ID で紐付け、
status=needs-localization
を自動発火させる。 - 翻訳レディ判定は自動で: SVG や PSD のテキスト抽出を CI で実行し、翻訳レビュー前にプレースホルダが残っていないかチェックする。
- 地域別ガバナンス表を一元管理: 著作権クレジットやモデルリリース有無を
metadata
タグで統一しておき、出荷時にmetadataAuditDashboard
と連携させる。 - 配信前バリデーションは 3 段階: (1) 解像度・比率、(2) ALT 文・構造化データ、(3) CDN キャッシュのメタ保持。失敗時は自動で Jira/Notion にチケットを起票。
- SLA を数値化: 「翻訳依頼から公開まで」のリードタイムを地域別に計測し、週次で改善サイクルを回す。
ローカライズ画像ワークフローの全体像
レイヤ | 担当 | 主な成果物 | 品質ゲート |
---|---|---|---|
Plan | PMO・ローカライズマネージャ | 翻訳ブリーフ、ガバナンステーブル | ALT 文テンプレートと用語集が配布済み |
Create | デザインチーム・コピーライタ | マスター画像、翻訳テキスト、レイアウトガイド | テキストレイヤの抽出結果が共有され、未翻訳が 0 件 |
Localize | 各地域制作チーム | ローカル差分 PSD/SVG、翻訳 ALT 文 | ブランドカラー、法的表記、画像内数字のローカル化が完了 |
Review | コンプライアンス・QA | 権利チェックシート、メタデータ監査ログ | 権利侵害・リスクタグが 0、メタデータ破損なし |
Publish | Web実装・CDNチーム | 最終 WebP/AVIF, ALT / JSON-LD | Lighthouse 国際化監査が合格、CDN メタ保持確認済み |
DAM と Git リポジトリの連携設計
ローカライズ案件では、DAM (Digital Asset Management) に保存された PSD や多言語オーバーレイのバージョン管理がボトルネックになります。下記のフォルダ構造例では、master
(英語または日本語基準) と locale
(各言語) を並走させ、Git 上の content/ja/articles/**
と同じ ID を付与しています。
DAM/
├─ hero-landing-2025/
│ ├─ master/
│ │ ├─ hero-master.psd
│ │ └─ copydeck.json
│ ├─ locale/
│ │ ├─ en-US/hero.psd
│ │ ├─ fr-FR/hero.psd
│ │ └─ id-ID/hero.psd
│ └─ metadata/
│ ├─ governance.yml
│ └─ rights.xlsx
governance.yml
のサンプル:
id: hero-landing-2025
subject: SaaS ランディングヒーロー
owner: Global Creative Studio
copyright: © 2025 Unified Image Tools
license: CC BY-NC-SA 4.0
restrictedLocales:
- cn-CN
- ae-AR
requiresLegalReview: true
CI では metadataAuditDashboard
の CLI エンドポイントを叩き、権利情報が欠損していないかをチェックします。
npx uit-metadata-audit \
--input DAM/hero-landing-2025/locale/en-US/exports/hero.webp \
--config DAM/hero-landing-2025/metadata/governance.yml \
--output reports/hero-en-US.json
テキスト抽出と翻訳待ち検出の自動化
翻訳漏れの多くは「PSD 内のテキストレイヤが翻訳対象として認識されていない」ことが原因です。placeholder-generator の Node API を使い、PSD 内のテキストレイヤを JSON で抽出して差分管理しましょう。
import { extractTextLayers } from "@unifiedimagetools/placeholder-generator/node"
const tasks = await extractTextLayers({
file: "DAM/hero-landing-2025/master/hero-master.psd",
locale: "ja-JP"
})
await fs.promises.writeFile(
"reports/hero-master-text.json",
JSON.stringify(tasks.layers, null, 2)
)
得られた JSON を Git にコミットし、Pull Request で比較できるようにしておくと、未翻訳レイヤに status: pending
が残ったままマージされることを防げます。
ローカルチームに配布するチェックリスト
カテゴリ | チェック項目 | 担当 | 頻度 |
---|---|---|---|
ブランド | ローカルブランドカラーの CMYK 値を反映し、ICC プロファイルを保持して書き出し | デザイナー | 各出荷 |
コピー | 数字・日付・通貨を各地域表記へ変換し、単位を統一 | コピーライタ | 各出荷 |
権利 | 第三者素材のライセンス条項とクレジット表記を確認 | ローカルPM | 週次 |
アクセシビリティ | ALT 文のフォールバック言語を準備し、WCAG 2.2 対応状態を記録 | QA | リリース前 |
配信 | CDN レイヤでメタデータが削除されていないかサンプルチェック | DevOps | 週次 |
リードタイムを可視化する KPI ダッシュボード
Looker Studio や Superset を用いた KPI の例を紹介します。
- Time-to-Live: 翻訳依頼から公開までの平均時間。目標 36h。
- Localization Coverage: 翻訳完了済みアセット数 / 総アセット数。目標 95%。
- Metadata Compliance Score: 監査レポートにおける欠損タグ数。0 を目標。
- Review Loop Count: 再修正の回数。2 回以内が理想。
GitHub のラベルを needs-localization
, ready-for-review
, approved
として進捗トラッキングすると、カンバン上で各ロケールの滞留を把握しやすくなります。
Edge 配信と差分ロールアウトの実装例
地域ごとの画像を Edge Functions で出し分ける例を Next.js で示します。batch-optimizer-plus で生成した WebP/AVIF をロケール別に保存しておき、middleware.ts
でエッジ配信を制御します。
import { NextResponse } from "next/server"
import { match as localeMatch } from "@formatjs/intl-localematcher"
import Negotiator from "negotiator"
const SUPPORTED = ["ja", "en", "fr", "id", "pt-BR"]
export function middleware(request: Request) {
const negotiator = new Negotiator({ headers: request.headers })
const locale = localeMatch(negotiator.languages(), SUPPORTED, "en")
const url = new URL(request.url)
if (url.pathname.startsWith("/assets/hero-landing-2025")) {
url.pathname = `/assets/hero-landing-2025/${locale}${url.pathname.replace(
"/assets/hero-landing-2025",
""
)}`
return NextResponse.rewrite(url)
}
return NextResponse.next()
}
ローカライズ後の QA フロー
- 自動チェック:
npm run content:validate:strict
で ALT 文、構造化データ、内部リンクを含めた整合性を確認。 - ブラウザ比較: Sequence to Animation を使い、各ロケールのヒーロー画像を GIF にまとめて UI チームへ共有。
- コンテンツ監査: metadata-audit-dashboard の結果を PMO がレビューし、エスカレーションが必要な権利問題を抽出。
- UAT: ローカルチームが QA Checklist を Google スプレッドシートや Notion に更新。
- ログ保管: 監査ログ・エビデンスを 12 ヶ月保管。次回監査に備えます。
ケーススタディ: SaaS プロダクトサイトの刷新
- 課題: 12 言語対応のランディングページでヒーロー画像がバラバラに管理され、翻訳漏れが頻発。
- 施策:
- DAM を
id + locale
で統一し、CI の翻訳抽出が未完了の場合はマージをブロック。 metadataAuditDashboard
と連携し、モデルリリース・ライセンスの欠損を Slack に通知。- batch-optimizer-plus のプリセットを地域別に作成し、ページ速度の地域偏差を 1 秒以内に圧縮。
- DAM を
- 成果: 翻訳サイクルが 72h → 28h に短縮、画像に起因するローンチ遅延がゼロ化、権利問題の問い合わせが 70% 減少。
まとめ
- DAM・Git・CI を三位一体で設計し、翻訳前提の ID 設計とメタデータ統制を行う。
- 自動化 (テキスト抽出、監査、Edge 配信) によってローカルチームの負荷を下げ、SLA を可視化して改善する。
- 権利・アクセシビリティ・ブランドガイドの観点をチェックリスト化し、ロールアウト後の監査ログまで含めたエビデンス管理を徹底する。
ローカライズを「後追い」ではなく「計画段階から組み込む」ことで、Web 制作会社は多拠点案件のリードタイムを短縮しつつ、品質・コンプライアンス・ブランド整合性を同時に満たすことができます。2025 年は、こうした統合フローを武器に、グローバルクライアントからの信頼を獲得していきましょう。
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