エッジフェイルオーバーレジリエンス 2025 — マルチCDN配信を止めないゼロダウンタイム設計

公開: 2025年10月3日 · 読了目安: 9 · 著者: Unified Image Tools 編集部

マルチCDN構成で画像配信を運用する際、フェイルオーバーの遅延や誤判定がUXに大きな影響を与えます。トラフィック切り替えが秒単位で完了しないと、Hero画像の白抜けやLCP悪化が即座に発生します。本稿では、SREがゼロダウンタイムを達成するために実施すべき監視・自動化・証跡化を統合した「フェイルオーバーレジリエンス」設計をまとめ、運用チームと経営層の意思決定を同じ指標で行えるようにするための実践手順を紹介します。シンプルなルーティング切替から構成管理、SLO消費レポートまで、段階的に導入できる知見を盛り込みました。

TL;DR

1. SLOとフェイルオーバー基準の設計

フェイルオーバーを安定させるためには、単なる「切替トリガー」のみならずSLOの分解と運用フローの整備が不可欠です。まずはエラーバジェット、レイテンシ、キャッシュヒット率の3軸でSLOを定義し、各軸に対してフェイルオーバー時の許容変動幅を設定します。

指標分解と責任境界

指標担当ロールフェイルオーバー時の許容範囲報告先
LCP p95SRE + フロントエンド切替直後に +250ms 以内プロダクトオーナー
CDNヒット率インフラ運用90% 未満になったら再切替検討技術責任者
5xx エラー率アプリケーション/オリジン1% 超過で強制フェイルオーバーインシデントマネージャー
SLO バジェット消費Site Reliability Manager月次で 20% 以内経営層

マルチシグナル判定テーブル

判定ステップトリガー条件データソース切替アクション
Step 0 — 予兆監視p95 レイテンシが閾値の 70% に接近RUM / SyntheticプライマリCDNのプレウォームを実施
Step 1 — 軽度異常ヒット率低下 + 5xx 連続 3 分エッジログ + メタデータ監査ダッシュボードポリシーベースの部分ルーティング
Step 2 — 致命的異常エラー率 ≥ 1% または LCP 600ms 悪化RUM + 合成 + パフォーマンスガーディアンセカンダリCDNへ全量切替、アラート発報
Step 3 — 回復確認主要指標が 3 セッション分安定RUM / エッジヒートマップ段階的にプライマリへ戻す
  • 指標の閾値はユースケース別に設定し、Hero画像とAPI画像で基準を変える。
  • フェイルオーバー判定は1分以内に完結させ、ログを自動チケット化する。

シナリオ別の切替戦略

  • 局所的な遅延: POP単位での切替を優先し、地理的に近い代替POPへTraffic Shift。DNS TTL は 30 秒以下。
  • 広域障害: 合成監視で3リージョン以上の遅延を検出した場合は、ルーティングレイヤーを即時に切替え、オリジン直結のバックアップ経路を有効化。
  • オリジン障害: CDN 側の切替ではなく、オリジンのBlue/Green切替と連携し、静的アセットのホットスタンバイを使用。

2. 観測アーキテクチャとデータ連携

Edge Logs --> Kafka --> BigQuery Views --> Looker Studio
          \-> [オーディットロガー](/ja/tools/audit-logger) --> Slack App
RUM --> Performance Guardian RUM API --> Error Budget Timeline
Synthetic --> Playwright Cron --> Incident Webhook --> On-call
  • エッジログは POP 単位のヒートマップに変換し、遅延クラスタを可視化。
  • RUM と合成データは BigQuery で統合し、遅延・エラーのダッシュボードを共通化。
  • Slack 通知では SLO 対応状況と閾値を添付し、誤アラートを減らす。
  • Kafka ストリームは edge-latency, edge-errors, routing-changes の 3 トピックに分割し、トピックごとに保持期間と消費者を調整。
  • BigQuery のマテリアライズドビューは 5 分更新で LCP, CLS, INP を集計し、合成テストのベンチマーク値と突合。
  • メタデータ監査ダッシュボード はキャッシュキーの揺らぎを検知し、フェイルオーバー後の署名トークン整合性を確認できるようにする。

監視カバレッジマトリクス

監視種別対象レイヤー頻度主な検知項目
SyntheticCDNエッジ1分LCP, TTFB, ステータスコード
RUMユーザー環境リアルタイムCLS, INP, 端末/ISP特性
ログ監査設定・ルーティングイベント発生時ルール変更、切替時間、権限
エラーバジェットSLO管理1時間バジェット消費、再投入計画

3. 自動化プレイブック

  1. 異常検知: ノードの遅延上昇を パフォーマンスガーディアン で検知。
  2. 影響評価: ダッシュボードで影響リージョンとトラフィック量を確認。
  3. 切替準備: エッジルールを GitOps から取得し、Canary 50% で適用。
  4. 完全切替: Terraform ワークフローで CDN ルーティングを切替、証跡を オーディットロガー に送信。
  5. ポスト分析: 切替時間・影響セッション数を計測し、SLO 消費量を更新。

チェックリスト:

  • [ ] フェイルオーバースクリプトを GitHub Actions で検証。
  • [ ] Incident Slack の通知にダッシュボードURLを自動添付。
  • [ ] 切替完了後に自動でパフォーマンス差分を生成。
  • [ ] 戻し作業のデプロイ権限を2名承認制に設定。

IaCとセーフガード

  • Terraform, Pulumi などのIaCは環境変数だけでなく、フェイルオーバー対象の POP リストやキャッシュポリシーをパラメータ化し、レビュー時に差分を明確にする。
  • GitHub Actions のワークフローには「Dry Run → Canary → Full」の3段階を用意。Dry Runではルーティング変更のシミュレーション結果をコメントとして残す。
  • オーディットロガー によってすべての IaC 実行結果を紐付け、変更申請→承認→適用の履歴を一元化する。

バックプレッシャーと再試行制御

  • フェイルオーバー中にリクエストが急増した際は、CDNのRate Limitや段階的な再開封を活用し、オリジンへの突発的負荷を抑制。
  • 失敗した切替ジョブは自動再試行の上限(例: 3回)を設け、失敗時にSREへ即時通知。
  • 再試行間隔は指数バックオフを採用し、予期せぬ二次障害を避ける。

4. 証跡とレポート作成

  • オーディットロガー で切替履歴・担当者・所要時間を保管。
  • フェイルオーバーごとに「検出 → 切替 → 回復」を 1 枚の報告書テンプレートに集約。
  • SLO 消費率は週次の品質会議で報告し、SLO 貯蓄の使途計画も明示。
  • 逸脱が連続した POP は CDNサービスレベル監査 2025 のエビデンスに追加。

レポートテンプレート例

セクション記載内容データソース
概要発生日時、影響リージョン、切替完了時間Incident Timeline
指標推移LCP / ヒット率 / エラー率の変化グラフRUM, Synthetic, Edge Logs
根本原因設定変更 / ベンダー障害 / オリジン障害などAudit Logs, Vendor Report
是正アクション再発防止策、ベンダー要求、SLO調整改善チケット

レポートは Confluence や Notion に組み込み、将来の契約更新やベンダー交渉で参照できるようタグ付けを行います。特に外部ベンダーの責務領域を可視化すると、再発時の責任分界が明確になります。

5. ケーススタディ: APAC キャンペーンの瞬断防止

  • 背景: 新機能リリースと同時にシンガポール POP で 5xx が急増。
  • 判定: Step 1 でヒット率低下を検知、Step 2 に進み全量切替を決定。
  • アクション: プレウォーム済みの香港 POP へ 40 秒で切替、Slack 通知で対応者をアサイン。
  • 結果: LCP の悪化を 120ms に抑え、SLO 消費は 8% 未満。ベンダーへ改善要求を提出しクレジットを獲得。

ロール別の振り返り

  • SRE: 切替判断に利用した指標と閾値を再評価し、検知遅延を 15% 削減する改善案を提示。
  • コンテンツ運用: フェイルオーバー中も Hero 画像の差し替えが滞らないよう、バリアント管理の棚卸しを実施。
  • カスタマーサポート: SLA 逸脱時の問い合わせテンプレートを改善し、ユーザーへの周知を迅速化。

ベンダー交渉の成果

フェイルオーバー証跡を基に、ベンダーに対して POP のキャパシティ増強と監視APIの提供を要求。結果として、障害復旧SLAが 30 分短縮され、オーバーレイネットワークの提供が追加されました。

6. ゲームデイと継続改善

  • 四半期ごとにゲームデイ演習を実施し、フェイルオーバースクリプトとSlack連携の有効性を検証。
  • 演習では意図的にDNS遅延、キャッシュ破棄、ベンダー障害シナリオを投入し、チームのレスポンスを評価。
  • 評価結果はスコアカード化し、次期の改善ロードマップを作成。各スプリントで 1 件以上のレジリエンス改善タスクを取り込む。

まとめ

フェイルオーバーは「切替スクリプト」だけでは成立しません。SLO 指標の分解、データ連携、証跡化を一体運用することで、秒単位の切替と事後分析が可能になります。マルチCDN 時代の画像配信を止めないために、レジリエンス設計を今日から強化しましょう。さらに、演習とレポーティングのサイクルを組み込むことで、運用チームと経営層が同じデータを基に意思決定できる体制が整います。

まとめ

フェイルオーバーは「切替スクリプト」だけでは成立しません。SLO 指標の分解、データ連携、証跡化を一体運用することで、秒単位の切替と事後分析が可能になります。マルチCDN 時代の画像配信を止めないために、レジリエンス設計を今日から強化しましょう。

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